CASE.8
真夜中の猫を表現したい
お客様の種類:紙版画作家ご利用事業の種類:同人誌印刷
それは、一通のメールから始まりました。
『猫の絵本が作りたい』
ほう、猫の絵本、どれどれ…
ここから、私たちと作家さんのこだわりがせめぎ合い、しのぎを削り、頭を悩ませ、でもなぜかハイテンションになる試行錯誤の日々が始まりました。
ちょっと、ここで話はそれるのですが・・・
世の中には、ネットプリントも含めて印刷屋さんは数多くあるものの、こと「製本」に関しては、プロフェッショナルと言える会社は少ないのが現状。
さらに本づくりは、ただ製本すればいいわけではなく、作品の世界観だったり、作家さんのこだわりだったりを、細やかに汲み取って表現していく、いわば作家さんとの二人三脚が必要なんです。
そういう意味では、私たちの同人誌部門も、作家さんの要望を一つずつ叶えていくことでレベルアップしてきた側面があります。
同人誌の世界で、箔押しと真摯に向き合い始めたのもおそらく西村謄写堂がトップランナーだったと思うし、近年の流行でもあるホログラム系の特殊紙もいろんなバリエーションを揃えていて…
(ちょっと、自慢タイムです)
ちなみに、私たちのこだわりが詰まった「印刷加工見本」は、「デザインのひきだし」という毎号ほぼ完売する人気デザイン雑誌にも掲載されました。
(またまた、自慢タイムです!)
さて、閑話休題。本題に戻りましょう。
猫の絵本を作りたいという作家さん。
まず、こだわっていたのが表紙の製本方法でした。
作家さんの要望は、この業界で言うところの「フランス製本」と呼ばれる手法。
表紙を長い紙にして、折り返しをつけて一枚目のページに巻き付けることでブックカバーのような仕上がりにする製本です。
そうすることで、表紙も厚くなり、厚紙で仕立てたような風合いにもなります。
ただ、このフランス製本、折り返しがミリ単位でずれることも多くて、正直、四苦八苦しました。
綺麗に、ピタッと揃えたい。でも、微妙にズレてしまう。
それを解決するために、一枚目のページのサイズを少し小さくすることで、折り返しもうまくハマりました。
さらに、こだわりがあったのは色彩。
この絵本の主人公は、真夜中に目が覚める黒猫。
誰もが寝静まった世界で、一緒に住んでいる人間に気づいてほしい黒猫は可愛らしくも、美しく、どこか儚い所作を見せます。
その幻想的な世界観を表現するために、濃淡の変えた色のパターンを校正刷もしました。
繊細な作風にマッチする深い青と黒。
真夜中に動く黒猫というビジュアルをどう表現していくか。
現場とも思考錯誤を重ね、納得していただける一冊ができたと思います。
その絵本は、美しい青が印象的な紙版画作品としてさまざまな地域の新聞に取り上げられ、何度か記事を見たひとから
「どこで買えるのですか?」
と問い合わせもいただきました。
印刷人としても作品に思い入れがあるので、そういった反響を聞いたり感じたりすると嬉しくなるものです。
作家さんと一緒に作り上げていく本。
この世界の面白さに、どんどんハマっています。